マウスの体細胞クローン作出法
 

 1995年、木村と柳町は、マウスの未受精卵の細胞質内へマウス精子を直接入れる方法を開発した37, 38)。それはピエゾドライブユニットという特殊なマイクロマニピュレーターを用いることで初めて可能になった。マウスの卵子は、このピエゾドライブを使った場合のみ、ピペットで細胞膜を破って精子を注入した後でも容易に生き残ることが出来るのだ。この方法はその後精子だけでなく精子細胞や精母細胞から産子を作ることにも応用された。
 著者らは、この方法を受精だけでなく核移植にも応用してみた3,36)。マニピュレーター上で卵子を固定するために必要な透明帯は、核移植の際にはじゃまになり、マニピュレーション時間が長くなり卵子にストレスを与えている。しかしピエゾドライブを使用すると、最初に透明帯をピエゾで一瞬で切ることが出来、そのまま同じ針で卵子の染色体を吸い取ることが可能になる。1時間で120-140個の卵子の染色体が取り除ける。次に針をドナー細胞のサイズに合わせて変え、その中へ細胞膜を壊して核だけを吸い込む。このときもピエゾを作用させると、容易にドナー細胞の細胞膜が破ける。そして除核した卵子へ、同様にピエゾで透明帯と細胞膜を破ってドナー核を注入する。このときはやや時間がかかるが、1時間で60-80個の核移植が出来き、細胞融合の場合のように、後で融合したかどうか確認する必要はない。また処理時間の短縮化は、卵子がマニピュレーションで受けるストレスを大きく減らした。これが発生率の向上につながったのかもしれない。
 核移植された卵子は、そのまま数時間培養したあと、塩化ストロンチウムで活性化する。このとき卵子内の核は、数時間待った影響でPCCを起こしている。このままでは卵子を活性化したとき、その染色体の一部が偽第2極体として放出されてしまう。そこでその偽第2極体の放出を押さえるために、サイトカラシンも同時に加える。活性化後、2-3個の偽前核が出来、そのまま培養すると受精卵のように核の融合が起こり、発生が継続される。この方法により、50%以上が胚盤胞へ発生し、それらの1-2%が産子まで発生する。

動画はこちら                             
1.除核(ファイルサイズ 約780k)
2.ドナー核採集(ファイルサイズ 約650k)
3.核の注入(ファイルサイズ 約1.0M)



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